本年度は環境水温の変化とくに高温化がクロマグロの卵発生に及ぼす影響について飼育実験を行い、異なる水温で得られた受精卵の水温耐性の違いについて検討した。東京都葛西臨海水族園の養成クロマグロにより得られた産卵水温の異なる受精卵を用いて、飼育水温を24~32℃の間の5段階に設定して行った。 産卵から孵化までに要した時間と飼育水温の間には負の相関関係が認められた。しかし、産卵水温25.0℃では、飼育水温28℃以上で孵化率が低く、奇形率が高い、一方、産卵水温30.3℃では、30℃以上で孵化率は低く、28℃以上で奇形率は高い傾向にあった。孵化最適水温(孵化率50%以上かつ奇形率50%以下の温度帯)は、産卵水温に依存して変化したが、どの場合も26.0±1.0℃の範囲にあった。卵発生に異常が生じる段階について観察したところ、産卵水温より3℃以上高い温度区ではレンズ形成期以降(産卵後14.1時間)で、3℃以上の急激な温度上昇を与えた場合は嚢胚期から原口閉鎖期(産卵後6.1-8.4時間)で異常が認められた。受精卵は、卵発生を通じて水温変化に対する耐性が低く、特に原口閉鎖期までの初期の段階において急激な温度変化にさらされると、正常な卵発生が行われにくくなることが分かった。 6月に熱帯・亜熱帯海域に生息する同属のキハダ(T.albacares)について、水温環境が本種の鉛直分布・行動に及ぼす影響について検討するために、石垣島沖で小型記録計の装着放流を行った。28個体のうち4個体が再捕され、3個体のデータ抽出に成功した。クロマグロとの水温適応の相違を明らかにすることを目的にデータを解析した。
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