2011年7月に(独)水研センター西海区水産研究所奄美庁舎の野外生簀で飼育されている養成親魚から得られた受精卵を実験に使用した。本実験の全設定水温は、23-29℃の間の7段階で行った。水温別の孵化時間、孵化率、生残率および奇形率を算出した。成長率は、仔魚の単位重量あたりのDNA量をから求めた。発生中の卵の代謝速度をアレニウスの式から算出し、高代謝・高孵化率である水温を孵化最適水温とした。 飼育水温と孵化時間の間には負の相関関係が認められ、飼育水温が上昇に伴い孵化時間は減少する傾向にあり、水温が孵化時間に与える影響は極めて大きいと考えられた。卵の代謝速度は25-26℃付近で大きく変化したことから、この温度付近を境に卵内の酵素あるいは触媒反応系に質的変化が生じていることが分かった。また、水温上昇に伴い、孵化率は低下し、奇形率も上昇する傾向が確認された。ただし、卵はレンズ形成期(産卵16時間後)以降に高水温に晒されても、奇形率が低くならないことから、産卵16時間後以上経過しているのであれば、高水温の影響は比較的軽減できることが分かった。 以上から、本研究における本年度および前年度での結果と既往研究から孵化限界水温は21-32℃であることが分かった。また、艀化に適し、かつ仔魚が高成長、高生残である水温は26℃付近ときわめて限られた温度域であることが示唆された。今後、地球温暖化に伴い産卵場の海水温が上昇した場合においても、26℃付近の水温帯が卵・仔魚にとって重要であり、卵仔魚の大量減耗を回避するには、卵仔魚にとってこの水温付近で成育することが重要であることが分かった。
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