本研究の目的は、幼少期社会環境による情動と社会性の発達に関する分子神経科学的基盤を明らかにし、発達に重要な母性因子の同定と、その代替法を見出すことにある。本年度は、早期離乳されたマウスでの脳内で部位特異的なBDNFの低下を見出し、さらにその中枢作用機序の解明に向けて研究を推進している。今年度は、1)BDNFのプロモーター領域特異的な発現の抑制として、プロモーター3の領域を同定した。この領域はBDNFの可塑的発現に関わる部位であることから、早期離乳などの社会経験によるものがエピジェネティックな制御を受けた可能性が示唆された。2)早期離乳されたマウスで認められる48時間以上の及ぶグルココルチコイドの過剰発現が、永続的な中枢機能変化の原因であることを実証するため、人為的にグルココルチコイドの分泌抑制を行ったところ、成長後の不安行動が緩解したことから、早期離乳の原因物質として、グルココルチコイドを同定した。3)早期離乳に認められる雌雄差の原因を追及することを目的とし、周産期にテストステロンを処置したマウスを作出し、成長後の不安行動を評価した。その結果、テストステロン処置メスマウスでも早期離乳による不安行動の上昇が確認され、この時期のテストステロンによって、オス型の脳が形成され、早期離乳に対する脆弱性が獲得されることが明らかとなった。これら3つの知見を基に、さらなる原因解明に向けた研究を進めている。
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