研究課題
平成20年度において,イヌ赤血球のうち多数のバベシア原虫が感染しているもののみ、その細胞膜表面にhsp70分子が存在することが明らかになったため、平成21年度にはこのhsp70の出現がバベシア原虫の感染と発育に関連するかどうかを中心に解析を行った。まず、蛍光免疫染色法を用いた観察の結果、赤血球膜表面にhsp70分子が存在する赤血球は16匹以上の極めて多くのバベシア原虫の感染を受けた赤血球のみで、2-8匹程度の感染では赤血球膜表面にhsp70が存存しないことが明らかになった。このことから、バベシア原里が赤血球内で十分に増殖を行い、赤血球膜を破壊して脱出する直前にのみhsp70が細胞膜表面に現れることが示唆された。また、バベシア原虫の感染していない赤血球膜表面にはhsp70は存在せず、またバベシア原虫の培養上清中にはhsp70が存在しなかったことから、バベシア原虫がhsp70分子を分泌し、分泌されたhsp70分子が赤血球膜に結合して抗原となることもない事が明らかになった。さらには、バベシア原虫由来hsp70に対するポリクローナル抗体あるいは市販の抗hsp70抗体が赤血球を傷害し、溶血を引き起こすかどうかをin vitroで観察したところ、抗体の存在により感染赤血球のみならず非感染赤血球もわずかに溶血が亢進し、さらに溶血の程度は感染赤血球と非感染赤血球で差がなかったことから、抗hsp70抗体は感染赤血球を強く傷害することはない事が明らかになった。以上の結果より、バベシア原虫に感染したイヌの血清中には抗hsp70抗体が大量に存在するものの、この抗体は多数の感染を受けた赤血球以外のほとんどの赤血球を標的としないため、赤血球の破壊を引き起こさず、イヌバベシア症において溶血性貧血の悪化には関与していないと考えられた。
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