ポストゲノム時代における生命の統合的理解および新しい診断法の開発を目的に分子イメージングの基盤技術を確立する「分子イメージング研究」が近年盛んに行われてきている。私はこれまで行ってきた蛍光プローブ開発研究を発展させ、生体組織透過性の高い近赤外光を利用し、実験動物を生かしたまま生体内分子を画像化する方法、あるいはそれを発展させた診断法を確立すべく、社会的にも動脈硬化など各種病態との関連について関心の高い酸化ストレス、活性酸素種を主なターゲットとして必要なプローブ分子の設計と合成、そしてその応用を行った。 具体的には、共役二重結合を有する近赤外蛍光色素でポリメチン色素の一つであるシアニン色素が活性酸素種と反応して、メチン鎖切断が起こることを明らかにし、その光の吸収波長が短波長側ヘシフトすることを利用した活性酸素種近赤外蛍光プローブFOSCY-1の合成に成功した。FOSCY-1を活性酸素種を生成するとされるブタ好中球の生細胞に負荷し、実用化に向けた検討を行ったところ、特に問題点を見出さず、実用性あるプローブであることが判明した。そこでさらに、活性酸素種が発生していると考えられる炎症モデルマウスに投与することにより、活性酸素種のin vivoイメージング実験を行い、活性酸素種生成の広がりを可視化することに成功した。なお、シアニン色素の一つであるインドシアニングリーンは既に肝機能や眼底の臨床検査薬としてヒトに対して汎用されており、色素骨格の生体への安全性は担保されており、実際の観察においても急性毒性は見られなかった。以上のことから、今後の画像診断薬創製へ向け、大きな知見を得た。
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