本年度は、米国スタンレー財団より供与された約100例の凍結死後脳組織(統合失調症・双極性障害患者と健常者の前頭葉部位)から抽出したゲノムDNAを用い、Affymetrix社製500K SNPアレイ解析を行った。得られたデータから、各サンプルにおける遺伝子多型およびコピーナンバー多型を同定し、既に取得済みの同じ脳サンプルセットでの網羅的遺伝子発現データとの関連を調べ、遺伝子発現に影響を与えるであろう多型の同定を行った。健常者培養リンパ芽球では同様の研究が幾例か報告されており、それら他のグループの結果と比較すると、幾つかの多型は異種組織間でも遺伝子発現に影響を与えることを発見した。また、遺伝子発現に重要な多型の中には、近年活発に行われている双極性障害や統合失調症でのゲノムワイド関連研究で有意と判定されている多型が含まれているのを見出している。疾患との関連が疑われる多型に関しては、多型と遺伝子発現の関係をRT-PCR法を用い確認した。一方、コピーナンバー多型と遺伝子発現の関係については、従来予想されてきたよりも脳の遺伝子発現に与える影響は限定的であることを示唆する結果が得られている。今後、疾患と関係する遺伝子多型を中心に機能的な意義や、コピーナンバー多型が遺伝子発現に与える影響をさらに精査していくと共に、DNAメチル化などのepigeneticな情報を加味して精神疾患患者で見られる遺伝子発現変動の実態を明らかにしていきたい。
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