アルツハイマー病(AD)における脳内病理学的変化として、βアミロイドを主成分とする老人斑と、異常リン酸化されたタウを主成分とする神経原線維変化(NFT)が知られている。NFTは老人斑の沈着に比べ、その発現量は臨床症状に高い相関性を示すことが報告されており、タウのイメージングはADの病状診断、治療効果判定に有用であると考えられる。本研究では、タウイメージングプローブの開発を目的とし、タウ凝集阻害剤であるローダニン(RH)及びチオヒダントイン(TH)を母核とする数種の125I標識化合物を合成し、その有用性を評価した。種々のRHおよびTH誘導体を合成し、チオフラビンS(ThS)をリガンドとするタウ凝集体への競合阻害実験を行った。125I標識体はスズ標識前駆体からのスズ」ヨウ素交換反応により合成した。125I標識体のタウ凝集体への結合性をサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)により検討した。さらに正常マウス体内放射能分布実験を行い、脳への移行性および脳からの消失に関する評価を行った。ThSとの競合阻害実験において、RHおよびTH誘導体はThSのタウ凝集体への結合を阻害したことから、本誘導体のタウへの結合性が示唆された。125I標識体は、放射化学的収率8-22%、放射化学的純度90%以上で得た。125I標識体とタウ凝集体との反応液をSECにより分析した結果、125I標識体は非凝集タウへの結合に比較して、タウ凝集体への高い結合性を示した。この結果はThSを用いた競合阻害実験の結果を支持するとともに、本誘導体の凝集体特異的な結合性を示唆するものと考えられた。また体内放射能分布実験の結果、数種の化合物は脳への移行性と脳からの速やかな消失を示した。以上より、RHおよびTH誘導体はタウイメージングプローブとして基礎的性質を有することが明らかになった。
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