研究概要 |
野生型マウスとP2X4受容体欠損マウス間で発現差異が認められた遺伝子として,ケモカイン類のCCL12やCCL7を検出した。これらはいずれもケモカイン受容体CCR2の内因性リガンドであり,CCR2はP2X4受容体と同様にミクログリアに発現し,神経障害性疼痛にも関与する。さらに,ミクログリアのCCR2刺激後にP2X4受容体タンパク質の細胞膜表面への発現が亢進することを見出した。この作用はCCR2刺激後30分から認められた。また,培養ミクログリア細胞に発現させたGFP融合P2X4受容体の動きをリアルタイムで測定したところ,CCR2刺激細胞ではGFP蛍光粒子の動きが増加し,総移動距離が有意に亢進した。細胞内におけるP2X4受容体タンパク質はリソソームに存在しているが,CCR2刺激によりリソソームとP2X4タンパク質の細胞内分布の変化およびリソソーム酵素の放出が起こり,またP2X4受容体依存的なAktリン酸化が有意に亢進した。これら一連の成果から,CCR2刺激によってリソソームが細胞膜へ融合し,結果としてP2X4受容体の細胞膜での発現が亢進したものと考えられる。このことは,P2X4受容体の細胞内での動態制御が新しい疼痛治療に繋がる可能性を示唆している。一方,ミクログリアP2X4-TGマウスでの研究において,前年度に作成した改良版Iba1プロモーターベクターの発現特異性を確認し,胚300個にマイクロインジェクションを行った。遺伝子解析の結果,ファウンダーマウス6個体を得ることに成功した。さらに,P2X4受容体が帯状庖疹による疼痛に重要な役割を果たしていることを見出した。この結果は,より臨床に近い慢性疼痛モデルにおけるP2X4受容体の重要性を示しており,P2X4受容体拮抗薬が疼痛治療薬として有用であることを強く示唆するものである。
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