安定マッチング問題では、男性集合と女性集合があり、各人が異性に対する希望リストを持っている。そのリストに基づいて「安定性」という性質を満たすマッチングを求める問題である。男性と女性を、病院と研修医、研究室と大学生などと考えると、世の中の様々なマッチング問題に利用できる問題である。本研究の目的は、そのような、実際に利用される場面に応じた定式化を行ない、それに対する効率の良いアルゴリズムを開発することである。本年度は以下の結果を得た。 1.学生を研究プロジェクトに配属させる安定マッチング問題が、過去に提案されていた。この問題では、安定マッチングが複数ある場合、それぞれのサイズが異なる可能性がある。本問題では、最大マッチングの探索がNP困難であること、及び、微小な正定数εに対して1+ε倍の近似も難しいことが知られていた。また、2倍の近似アルゴリズムも既に知られていた。本研究では、1.5倍の近似アルゴリズムを与えるとともに、21/19倍近似が困難であることを示した。 2.Gale-Shapleyアルゴリズムによって求められる安定マッチングは、男性側にとって極端に有利となる「男性最適性」と呼ばれる性質を満たす。これを利用し、例えば研修医配属においては、立場の弱い研修医側に有利な配属を求める方式が、通常採られている。しかし、入力によってはこの性質を生かせず、研修医最適安定マッチングであっても研修医側にかなり悪い結果となってしまうことがあり得る。このような場合でも、出来るだけ研修医に有利な結果をもたらすように希望リストを調整するという問題を考えた。その結果、最大の利益をもたらす調整方法を求めるのが0(n^{3})時間で、また、少しでも利益を得られる調整方法があるか否かを判定する問題が0(n^{2})時間で解けることを示した。ここでnは研修医の数である。 3.研修医の病院医配属問題においては、各病院は受け入れ可能な研修医数の上限を指定する。しかし、通常は上限の和が全研修医数よりもかなり多いため、1人も配属されない病院が生じてしまう。これにより、医者や研修医の都市部への集中が起こり、郊外における医師不足の問題を引き起こしている。本研究では、この問題を解消するため、病院が受け入れ最低人数も指定できるモデルを提案した。また、この変更により安定なマッチングが存在しない可能性が出てくるという問題点を指摘した上で、これを解消するため「できるだけ安定な」マッチングを求める問題を提案し、それに対する近似アルゴリズムを与えた。
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