本年度は、本研究全体における基盤整備期間として、量子アルゴリズムの構築および性能評価に有用と期待される数学理論および量子情報理論の基礎研究を中心に行った。具体的には、量子情報理論における基盤問題の一つである状態識別問題についての考察ならびに情報収集と、本研究の主要な研究ツールである組合せ論、群論、表現論についての基礎研究と情報収集を主に行った。 本研究全体の対象である隠れ部分群問題とは、大まかに表現すると、考察の対象となる部分群のある性質として考えられる可能性ごとに一つの量子状態が対応しており、それらの中から選ばれた一つの状態が与えられるとき、与えられた状態が上述の候補のうちどれであるか判定する問題であると言い表すことができる。この問題設定は、量子情報理論における基盤問題の一つである状態識別問題と極めて良く合致しており、そのため状態識別問題を詳しく研究することで隠れ部分群問題に関する有益な知見が得られるものと考え、研究を行った。その結果、状態識別の理論的な最適成功確率を見積もるのに有効な幾何学的手法を新たに見出すことに成功した。本成果は国際会議「QIP2009」(ポスターセッション)及び国内の主要学会である「SCIS2009」において本研究代表者が筆頭著者・登壇者として発表済みであり、現在国際論文誌への投稿に向けて準備中である。本成果により量子状態識別問題に関する新たな知見を得たことで、第二年度以降の研究に向けた良い準備期間にできたと考えている。
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