平成21年度の本研究成果の一つは、前年度から継続して実施してきた、本研究において利用する基礎理論のさらなる整備である。本研究の題材である量子アルゴリズムの基盤となる量子情報理論においては、観測による量子状態の識別や(量子)エントロピーといった概念が重要な役割を果たしている。当年度の研究では、それらの重要な概念について、数学的な抽象化に基づいた研究を行い、操作論的な観点からいくつかの既知の性質に対する新たな解釈を提示するとともにいくつかの未知の性質を見出した。この成果は本研究を進める上での助けとなるだけに留まらず、量子情報理論それ自体の発展にも大さく貢献するものであると考えられる。 一方、隠れ部分群問題の考察を行う過程で、隠れ部分群問題に関する既存の研究について改めて調査を実施し、既存研究の理論的特徴やその改善が望まれる点の整理を行った。この調査結果の一部をシンポジウムにおいて発表するとともに文書(講演集採録)としてまとめた。 そして、当年度の後半には、上記の成果をもとに、隠れ部分群問題の解決に向けた新たなアイデアの検討を開始した。特に、上述のように既存の研究成果を整理した中から、隠れ部分群問題についての従来主流となつている定式化にやや曖昧な点が存在することを見出した。この曖昧な点を解消することで問題の見通しが良くなり、今後の本研究の進展への好影響が期待されることから、より優れた定式化の考察を重点的に行った。その結果、この定式化に関する大まかな着想は得たものの、細部を詰める段階までは至らなかった。この点は平成22年度の本研究に向けての継続課題である。
|