平成23年度の本研究においては、前年度までに得た隠れ部分群問題に関する新たなアイデアを基に技術的詳細の検討を行った。具体的には、従来研究されてきた隠れ部分群問題を解く量子アルゴリズムの主流な候補において用いられる2種類の量子メモリ(レジスタ)のうち、殆ど有効活用されていなかった片方の補助レジスタに着目し、その補助レジスタの能力をより積極的に活用することにようて、隠れ部分群問題に対する量子アルゴリズムの性能を改善することを目指して研究を行った。この問題設定では、問題を解く側は二種類の可能な隠れ部分群のいずれかに対応する状態を提示され、どちらの隠れ部分群かを識別することが求められる。今回の検討により、これら二通りの状態の各々において補助レジスタの保持する情報のエンコード方法が互いに異なることが原因で、当初の想定よりも二通りの補助レジスタの挙動の比較が困難であることが判明した。この新たな問題を克服するための新しい手法の考案に取り組んだが、残念ながら当該年度内に成果を上げることができなかったため、今後も継続した研究を行う計画である。 また、前年度に国際論文誌へ投稿した研究成果について、残念ながら論文誌より不採択の通知を受けたため、再投稿へ向けた論文の改訂に取り組んだ。これらについては近々再投稿を行える見込みである。更に、この論文の成果である、量子計算機の最小記憶素子の候補と考えられている2準位量子系(キュービット)の満たすべき本質的性質についての結果を、複数のキュービットからなる系に拡張するための研究にも取り組んだ。複数のキュービット系への拡張は実用的観点から非常に重要であるが、具体的な成果を得るには至っていないため、今後も継続した研究を行う計画である。
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