高速に動作する回路やプリント基板からの電磁放射の要因としてコモンモードなどの明示的な帰路線をもたない電流伝播が注目されている。このような電流伝播のモデル化においては、従来回路モデルにおいて用いられてきた電圧という物理量が経路依存性をもつため、回路の状態変数として適切でない。本研究では電流と電圧の代わりとして電流と電荷を状態変数としてもつ回路モデルを構築することを目的としている。 本年度はその基礎となるモデルの要素として、伝播線電流と静止点電荷を提案した。伝播線電流は線上を光速で伝播する電流要素であり、静止点電荷は静止している点状の電荷である。これらのつくる電界は解析的に記述できるという特徴をもつ。また、伝播線電流は無限長線路におけるMaxwell方程式の解となるため、モデル化において要素の長さを大きくとることが可能になる。 解析手法としては、この伝播線電流と点電荷によって解析対象の形状をモデル化し、導体表面における境界条件から電流を未知数とした方程式を複素周波数領域上で解き、これを逆ラプラス変換により時間領域に変換することにより過渡波形を得る。 この手法を実際に直線状単導体線路に適用し、電流伝播がモデル化できることを確認した。また、回路モデルとしては、できるだけ大きな単位でモデル化できることが望ましいが、提案モデルでは伝播線電流の要素を解析対象の最小波長よりも大きくとっても解析できるという、良い性質をもつことを確認した。
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