本研究は、流体力学を用いたアート表現のための、リアルタイム流体シミュレーションを開発することを目的としている。流体とは、普段身近に存在しつつも、実際に詳細な流れを目にすることはあまりない。しかしながら、流体は人間の生活において重要な役割を果たしており、自然を理解するうえで流体を「見る」ことができるということは有益である。また、流体の動きは多彩であり興味深く、シミュレーションによって流体め動く様子を見ることは単純に面白いと考えている。昨年度、流体力学を用いた表現によるアート作品として、メディアアートを1点作成し、オーストリアで行われたARS Electronicaに出展し、好評を得た。手足の動きにあわせて流れが変化する様子をヴァーチャルな環境で可視化することで、自分の環境に興味を持つきっかけとなる作品であった。 今年度は、上記の作品制作から得られた知見から、リアルタイムで流体の挙動を提示することは、流体の理解につながると考え、シミュレーションにおいては、計算機による解析を高速化させる目的で、コンピュータグラフィクスチップ上で任意の計算を実行させる技術である、GPGPU(GPUによる汎目的計算)手法のひとつである、CUDAを用いた。これにより、3次元のシミュレーションを毎秒30秒以上の更新頻度で実行することが可能となることが確かめられた。また、乱流モデルとしてレイノルズ平均モデルをリアルタイム性を損なわずに用いることが可能であった。ノートパソコンでも実行可能な流体シミュレーションによって、空調などの流体が関係する身近な現象について、専門家でない人であっても実際に予想される流体の流れを見ながら意思決定を行うことが可能になった。
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