研究概要 |
本研究では人間の「移動感覚」に着目し,移動感覚を構成する要素の一つである「速度感覚」を安価に増強可能なシステムの構築をその目標としている.人間の速度感覚知覚には視覚情報が大きく影響を及ぼしており,特に視野周辺部からの情報が重要であるとされている.昨年度までの研究において,速度感覚を増強する上では,視野の左右方向よりも上下方向に視覚刺激を提示した方が有利であり,特に地面方向と上方向とを比較した場合,地面側視野角90度の刺激と,上側視野角180度の刺激で同程度の感覚強度となることがわかった.本年度はこれまでの研究を踏まえ,周辺視野への「気にならない」刺激方法の実現について研究を行った. その方法の一つとして,1/3ずつ位相の異なる正弦波縞が左右どちらかに連続して移動する視覚刺激3枚を作成し,150fpsで繰り返し表示するという手法を提案した.この方法では,中心視領域では人間のCFFを越える刺激となり視覚刺激は認識されず,周辺視領域でのみ運動刺激が認識される状態となることを狙って設計されている.実験の結果,中心視領域に表示された映像と同時に,周辺視領域の運動刺激を方向・強度含めて認識できることがわかった. また,並行して,昨年の結果を踏まえて,高速な往復運動刺激を視野の下方に配置することで,中心視領域を妨げず,周辺視野領域のみに視覚刺激を提示する手段を開発した.
|