研究概要 |
本研究で推進している文法理論は、統語論として組み合わせ範疇文法(Combinatory Categorial Grammar(CCG) : Steedman(1997,2000))、意味論として型付き動的論理(Typed Dynamic Logic(TDL) : Bekki(2000))を採用しており、その基礎はラムベックλ計算にある。しかし、文法記述の網羅的を確保しようとするなかで、いわゆる統語論・意味論の中核的現象ではないとされる文脈的・談話的・語用論的現象が多様に存在しており、それらをラムベックλ計算的枠組みのなかで記述することはこれまで難しいと考えられてきた。 一方で、この状況はプログラミング言語の理論研究において、純粋な関数型言語のなかで、実用的なプログラミングにおいては不可欠な計算的要素(例外・入出力・非決定性等)をどのように記述しうるか、という問題が存在し、それに対し、圏論におけるモナド(monad)の概念を用いて、型付きラムダ計算を拡張するという試み(Moggi(1988), Wadler(1992))によって解決の方向性が示された事情と共通している。 本研究の研究成果(Bekki(2008))では、圏論におけるモナドを用いて拡張した型付きラムダ計算が、文法理論において文脈的・談話的・語用論的現象を記述するのに役立つことを指摘し、また「モナドによる拡張」という概念自体を形式的に記述するための「メタラムダ計算」の提唱、およびそれを用いて、近年のプログラミング言語理論においては、元々の圏におけるモナドからかけ離れつつあったモナドの概念が、いかなる意味においてモナドであると言えるかを定式化することに成功した。
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