研究概要 |
本研究では,遠く離れた場所からでも利用できる新たなバイオメトリクスとしての歩容認証技術の確立を目指し,全方位カメラを用いて観測される複数方向の歩行画像情報の統合による高精度な個人認証を目的とする.本年度は,登録時と入力時のシーケンスに含まれる観測方向が異なる場合に問題を拡張する. 研究方法としては,まず,5m四方の屋内空間に全方位カメラ(現有設備)を設置し,全方位カメラに対する歩行方向を様々に変えながら,21人の被験者の直線歩行を撮影した.また,複数の歩行シーケンスを高解像度の動画像として撮影することから,データ容量が膨大になるため,外付け大容量ハードディスク(消耗品)等へデータを保存した.次に,データセットの各シーケンスよりシルエット抽出・人物追跡・観測方向の推定等を行い,複数方向の周波数領域特徴を取得した.認証時には,登録と入力のシーケンスに含まれる方位及び俯角方向が異なることがあるため,各方向の変化による特徴変化を考慮した変換手法を提案した.具体的には,比較的小さな変化である俯角変化については,事前学習が不要な矢状面の透視投影による変換を行い,俯角0度のシルエット画像への変換を行う.次に,変化が大きい方位角方向については,申請者が提案した事前学習と因子分解法に基づく方向変換モデルにより登録と入力の方向を補間し合うことで,登録と入力の共通方向が少ない場合において,多方向照合を実現する.前年度の共通方向のみによる手法と比較して,俯角の正規化と方位角の補間を行った提案手法により,受信者操作特性曲線(ROC Curve)上における他人受入誤り率と本人拒否誤り率の等誤り率(EER)が1~2%程度向上することが確認された.この性能向上は,特に共通方向が少ない場合に大きく,また共通方向の照合では扱えなかった,共通方向が存在しない場合においても一定の認証を行えることを確認した.
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