携帯電話が通話者の口唇動作情報を得られれば、口唇動作のみで電話自動応答サービスへの入力、パスワード認証、通話品質改善等、携帯電話の高度化が実現できる。しかし、撮像素子と画像処理による従来の口唇動作抽出法では、高速・大規模な回路が必要であり、携帯電話への実装には不利である。そのため、申請者が従来より開発を進めてきた、赤外光を口唇へ照射し、その反射光の変化により口唇動作をセンシングする、低コスト、小サイズ、そして計算量が極めて少ない特徴を持つ口唇動作抽出センサが有用となるが、携帯電話への実装には、利用時に想定される、センサ位置のずれや外来光・照射光の変動などの影響に対してロバストにする必要がある。 そこで本研究では、携帯電話に実装可能な口唇動作抽出センサの実現を目指し、平成20年度は、センサの位置ずれによる口唇動作抽出精度への影響に関して調査を行った。この調査は、口唇周辺の100箇所における50単語発声時の口唇動作を抽出し、単語音声認識エンジンによる単語認識率にて評価を行った。その結果、口唇中央付近と口唇側面(水平方向)の2領域では90%前後の単語認識率が得られ、高い精度で口唇動作を抽出できる領域が判明した。平成21年度の研究では、精度が低下する領域でも確実に口唇動作を抽出できるように、複数のセンサに拡張する。 また、平成21年度に予定している位置ずれや照明環境の変動の影響を低減する手法の研究に備えて、複数の口唇動作抽出センサの入力と制御を可能とするインタフェースを新たに開発した。これは、複数のセンサ信号を同時にPCに取り込むことができ、さらに、複数のセンサの赤外光光源も個別に任意で制御できる装置とした。平成21年度の研究では、この装置を用いて研究を行う。
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