携帯電話が通話者の口唇動作情報を得られれば、口唇動作のみで電話自動応答サービスへの入力、パスワード認証、通話品質改善等、携帯電話の高度化が実現できる。しかし、撮像素子と画像処理による従来の口唇動作抽出法では、高速・大規模な回路が必要であり、携帯電話への実装には不利である。そのため、申請者が従来より開発を進めてきた、赤外光を口唇へ照射し、その反射光の変化により口唇動作をセンシングする、低コスト、小サイズ、そして計算量が極めて少ない特徴を持つ口唇動作抽出センサが有用となるが、携帯電話への実装には、利用時に想定される、センサ位置のずれや外来光・照射光の変動などの影響に対してロバストにする必要がある。 そこで平成21年度は、平成20年度に行ったユーザの持ち方等によるセンサの位置ずれが口唇動作抽出精度へ及ぼす影響に関する調査結果をもとに、精度が低下する領域でも確実に口唇動作を抽出できるように、9つの口唇動作抽出センサを携帯電話の文字盤部分に3×3のマトリックス状に配置し、マルチチャンネル化を行った。そして、9つのセンサ信号から有効なセンサ信号を、発話単位で自動的に選択する手法を開発した。これら提案手法の改善効果を、被験者8名の口唇動作のみによる50単語認識実験にて検証した結果、平均認識率74.1%が得られ、全被験者に対する平均認識率が最も高い位置の従来の単一センサと比較して平均7.2%の改善が実現できた。 以上より、本研究により、口唇動作抽出センサに対して、携帯電話利用時のセンサ位置ずれに耐性を持たせることが実現できた。
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