本研究計画の目的は、ロボットの行為経験に接地した言語の学習モデルの実現であった。この目的を果たすために、今年度は行為のドメインにおいて組み合わせ的な心的表象の自己組織化学習実験をシミュレーション環境上で行った。結果、従来手法では不可能であった動詞概念の経験学習による獲得に成功した。具体的には、新たに提案した学習モデルを用いて、ロボットに未経験の行為を既知の動詞、名詞、副詞の新たな組み合わせとして生成させることができた。新たな行為の部品となった動詞・名詞・副詞は、ロボットが行為経験を通じて学習したものである。従来、動詞概念の学習において最も大きな障害となっていたのは「動詞が目的語や副詞と組み合わされて行為を表現する」という述語構造についての知識の獲得方法である。近年、人間の乳児の言語発達の用法基盤アプローチに基づいた研究で、この構造的な知識の獲得メカニズムヘの関心が高まっているが、具体的な計算モデルは提案されていなかった。本計画では、従来のアプローチと全く異なり、かつ、用法基盤アプローチと整合的な概念獲得の計算モデルを提案した。これまでのモデルが個々の概念を明示的に獲得することを基本に考えていたのに対し、本計画で提案したモデルは経験間の規則的な関連性を獲得することに注目した。たとえば、「投げる」という概念を獲得する場合、従来手法では「ボールを投げる」といった行為経験から「投げる」を明示的に取り出そうとした。これには述語構造を前提する必要があるので動詞概念の獲得モデルとして中途半端にならざるを得ない。これに対し、「ボールを投げる」と「箱を投げる」、さらには「ボールを蹴る」と「箱を蹴る」といった様々な行為間の関係を表象の対象とする本計画の立場では、述語構造の創発的な獲得プロセスを観察することができた。この結果をロボット研究として進めていくだけでなく、認知理論へのフィードバックをしていきたいと考えている。
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