研究概要 |
本研究は, 音楽を人間の認知的・身体的特徴に基づく創発現象と捉えることにより, 作曲における人間の暗黙的な知識を明らかにし, 新たな音楽の設計理論の構築を目指すものである. 平成20年度は当初の研究計画のうち, (1)認知的特徴を考慮した旋律の創発的設計手法の構築と(2)音の時間的相互作用に着目した音楽的文脈の創発メカニズムの解明に関する研究を行った. 前者に関しては, 「わらべうた」における旋法音楽(5音階)を対象として, これまでに培った新しい旋律生成モデルを, 西洋音階に対しても適用し, 心理実験によってその有効性を確認するとともに, 聴取者の印象を変化させ得る操作パラメータを検討した. 後者に関しては, 非線形振動子としての性質を持ったエージェント間の相互引き込みにより, 発音タイミングと音高遷移タイミングを決定する旋律生成モデルを提案した. そこでは, この生成モデルにより, 既存曲に見られるような音楽的周期性を実現するとともに, エージェント間の結合の強弱によって異なる印象を持つ楽曲を生成できることを確認した. さらに, 音楽の時間的側面における人間のリズム生成過程を明らかにするために, 指タッピング課題を用いた人間同士の時間的共創過程の観察とそのモデル化を行った. そこでは, 自己の内的なテンポと外界や他者から得られる外的なテンポを統合することによって外界との協調的な時間生成を行っていることが示唆された. これらの結果は作曲における人間の暗黙的な生成ルールの解明につながると考えている.
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