本研究の主目的は、顔画像の形態的な変形によってもたらされる高次な心理的意味変化に着目して、感性的な顔認知の過程について実験心理学的に調べ、その特徴を明らかにすることであった。本年度は以下の2点を実施した。 (1) 顔画像変形の動画表示がもたらす心理的効果を実験的に調べた。モーフィングを利用して特定の感情的意味をもつ表情顔からニュートラルな真顔へと連続的に変形するアニメーションを作成し、それらをモニタ上で観察者に提示して動画最終部に表示される真顔の評価を行わせた。その結果、変形の文脈となった表情タイプに依存して、その表情のもつ感情的・心理的意味と反対方向へと真顔の印象が変化して認知されることがわかった。成果の一部は研究会等で公表された。 (2) 顔の形態的変化として個人の顔の表出の違いに着目し、高次な感性的価値である顔の魅力の評価基準を計量心理学の手法により調べた。複数の観察者に対して印象評価実験を実施し、SD法にもとづく顔の印象定量化および単一次元での魅力度測定を行った。印象タイプと魅力評価の関係を多変量解析的に調べた結果、高魅力度であるポジティブな形態変形(笑顔)と低魅力度であるネガティブな形態変形(悲しみの顔)では、魅力を評価する際に重視される印象タイプやその寄与度が異なっており、表出形態の違いにより魅力評価の基準がそもそも異なる可能性が示唆された。本研究の分析の一部とその考察は次年度以降も継続することとした。
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