本研究は、顔の個人差をできるだけ排除するために平均顔を用いて真顔認知における表情文脈効果の普遍性を実験的に検討した。 実験1は、快不快、覚醒度からなる2次元の感情意味空間へ平均顔刺激(静止画像およびモーフィング動画像)を位置づけ、その布置を確認することを目的とした。36人の実験参加者がパソコン画面上に呈示された各表情顔・真顔の静止画に対して感情印象評定を行った。真顔評定値との差分を求めて各表情顔刺激の評定値を標準化し、その得点を感情意味空間上にプロットした。その結果、第1象限には幸福および驚き、第2象限には恐れ、怒り、および嫌悪、第3象限には悲しみが布置し、各表情が円環状に分布した。実験2では、実験1と同じ実験参加者が、表情戻り過程のモーフィング動画像で最終提示される真顔平均顔に対して情印象の評定を行った。実験1で得た真顔評定値との差分を求めて各刺激の評定値を標準化し、感情的意味空間へプロットした。その結果、第1象限には悲しみ、怒り、嫌悪から変化した真顔、第3象限には幸福、恐れから移行した真顔、第4象限には驚きから移行した真顔がそれぞれ布置した。1サンプルのt検定を行った結果から、怒り、幸福、悲しみの表情から変化した真顔において、快不快の感情次元でOvershootが生じることが示唆された。一方、恐れ、驚き、悲しみの表情から移行した真顔には覚醒度の感情次元で同効果が生じ、それぞれ変化前の表情の感情意味空間における分布極性に従って各次元で位置が変化することが示された。 以上の結果は、表情変化を伴う真顔符号化に、変化前の表情顔の感情印象が影響することを示している。また、この文脈効果は顔の造り等の個人差によらず普遍性があるものと考えられた。これらの成果は日本認知心理学会第10回大会へ発表論文として提出された。
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