| 研究概要 |
音信号の空間情報を制御するために,ステレオよりも臨場感のある音場再現手法して近年注目されているAmbisonicsのフォーマットの利用を試みた.Ambisonicsは,球面調波解析により音の到来方向を収音時に分解し,再生する際にもその到来方向が合成されるように各スピーカでの出力信号を決定する手法である.これにより,音源の空間情報を制御し,本研究課題で着目している空間マスキングを活用した音響電子透かし手法を2つ考案した.ひとつは,透かし信号としてPN系列信号をホスト信号の空間的近傍に配置する手法である.もうひとつは,モノラルやステレオ信号をAmbisonics信号に変換した際に生じる冗長性を利用したものであり,適切な条件の下では透かし入りの信号を再生しても,物理的に原信号と同じ音が再現される手法である.したがって,後者の手法については,データハイディングとしての特質も有している.それぞれの手法について,音質に影響を与える要素をパラメータとして聴取実験を行い,聴覚的な秘匿性についても現実的な条件化で聴取者が透かしによる歪を知覚できないことを確認した.考案した手法の定式化および聴取実験結果について,査読付国際会議で発表した論文は,Best Paper Awardを受賞した.また,空間情報を利用する上で,ヘッドホン提示時でも空間情報が正確に再現される再生手法の実現は欠かせないことから,本研究課題開始当初からこの検討を重ねてきた.その成果はIEEEEのTransactionsに投稿し,査読を経て掲載されることが本年度に決定した.
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