研究概要 |
擬似乱数は工学の様々な分野で用いられるが, 独立同分布(i. i. d)が暗黙裡に仮定されることが多い. 非同期CDMA通信では, i. i. d. 系列よりも負の固有値を持つマルコフ系列をスペクトル拡散符号の方が信号対干渉比(SIR)とビット誤り率を低下させることが証明されているが, 残念ながら広く利用されるに至っていない. その最大の理由は, 帯域制限フィルタとして, 広く利用されているroot raised cosine(RRC)フィルタの場合に, SIRの改善率が僅か2.3%程度にしかならないためであろう. 本年度, 研究代表者らは, RRCフィルタに替えてガウスフィルタを用いる場合には, 強い負の相関を持つマルコフ系列がi. i. d. に比べSIRを69%と大幅に改善することを示した. さらに, 次世代携帯電話の標準方式として有力なOFDMとマルチキャリアCDMAが, データを並列伝送する際に, 各サブキャリアの周波数スペクトルが互いにオーバーラップするため, 周波数オフセットに非常に弱い点を憂慮して, 擬似直交マルチキャリアCDMAを提案した. 本研究の目的は, マルコフ系列の負の固有値が干渉を下げる効果を持つことが, 工学のほかの分野でも共通に現れるのではないかという疑問を明らかにすることであり, 最終年度に向けた調査結果としては, 単位時間以下の同期ずれを持つようなマルチキャリア通信系において, 負の相関を持つマルコフ乱数列が, 符号間の干渉の分散を下げるという現象を確認した. 単位時間以下の同期ずれの問題は, 1)シャノンの標本化定理, 2)周波数・時間の不確定性, 3)Gaborの周波数・時間の二次元格子に密接に関係する連続時間信号から離散時間表現への射影の問題に係わっていることを示している.
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