人工ニューラルネットワークを用いて脳の記憶過程をモデル化した、いわゆる連想記憶は1980年代によく研究され、統計力学のスピン系の理論を援用して、記憶容量の解析が行われた。その後、擬似乱数を用いるCDMA通信の仕組みが連想記憶とよく似ていることが指摘され、近年ランダム拡散を用いたCDMA融通信の品質解析にスピン系の理論が応用されている。本研究はこれらの手法とは逆に、CDMA通信の側から統計力学ヘアプローチするものである。CDMAではユーザ間の同期を仮定しない非同期通信の方が、同期通信よりも相互干渉の平均値が低くなる結果が知られている。これを応用して、異なる記憶に対応する2値パターンを僅かずつ位相をずらしながら足しあわせることにより、位相がそろっている時よりも干渉が少なくなることを実験により確かめた。 本年度は、位相のずれのある連想記憶のパターン間干渉成分の理論的評価を与えた。記憶パターンが公平なコイン投げのモデルである独立同分布の場合よりも、負の相関を持つマルコフ連鎖に従う場合にパターン間の干渉が低下することを示した(SITA2010)。CDMA通信の分野でも、ユーザ間の同期誤差が重要な役割を果たすことを示した。すなわち、従来の時間方向の同期のずれに代わって、周波数軸方向の同期ずれを許容するFD-CDMAシステムを提案し、同期に誤差があるほうがかえって干渉が下がることを示した。さらに、FD-CDMAと従来のDS-CDMAを組み合わせた通信方式を提案した。これは、時間と周波数の2種類のずれを同時に許容するシステムであり、平成23年5月開催の信号処理の最大規模の国際会議ICASSP2011に採録された。
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