本研究は、動的に状態が変化するニューラルネットワークの理論を構築し、それを運動制御などに応用することを目指した研究である。「動的」とはネットワークの状態が安定平衡点やリミットサイクルのような定常状態に落ち込まず、状況に応じて変化することを表している。 理論面においては、大脳皮質における記憶の動的な理論モデルとして、生理学的知見を踏まえつつ記憶の動的な変化を表現できるミニマルなモデルを構築することができた。このネットワークは皮質2/3層のモデルとなっており、投射されるアセチルコリン量に応じてネットワークによる記憶の想起が動的・静的に切り替わるというモデルになっている。力学系理論の言葉を用いれば、これは準アトラクタとアトラクタとの間の転移が起こることを示している。さらに、皮質1層へ入力される上位層からのトップダウンスパイク投射の役割についても検討し、これがネットワークの状態を他のアトラクタへ「ジャンプ」させることを明らかにした。この成果を英語論文にまとめ、投稿することができた(査読中)。 応用面では運動制御についても研究を進めた。当初の予定では二足歩行のモデル化を考えていたが、歩行の安定化だけで一つの大きな研究テーマになってしまうため、ロボットアームの制御を対象とした。人間の手にスマートフォンを持たせ、その腕の動きを模倣するようロボットアームを制御する課題を通り扱った。様々な手の動きを適切なアームの動きを動的に生成するネットワークの構築に成功した。 また、本年度は最終年度であるので、学会における成果発表を積極的に行った。
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