研究概要 |
自然界の多くのシステムは, 複数の要素が複雑に相互作用する多変量システムである. システム全体の振舞いは複雑になり, その結果, 予測や制御が困難になる. 本研究では, この多変量システムを効果的に予測する手法を議論した. もしシステムを構成する1つの要素を予測対象とする場合, 観測できる全要素の振舞いを予測のための情報として利用することができる. しかし, どの要素が要素iに影響を及ぼしているのか同定することは難しい. もし要素iと関連しない要素までも予測に利用してしまうと, 予測モデルは複雑になり, 情報量基準の観点や予測精度の観点から適切であるとは言えない. つまり, 要素iと直接的に相互作用する要素ijの振舞いのみを予測の手がかりにする必要があり, そのためには, 全変数から要素ijを同定する方法が必要となる. このようにシステム全体の因果構造を同定できれば, 予測に限らず, システム全体の理解に役立つ. そこで本研究では, 遺伝的アルゴリズムを用いて, 要素iを最適に予測できるように使用する情報を厳選した. さらに, この予測精度の最適化によって, 要素iと相互作用する変数ijを特定した. この手法の有用性を検証すべく, 複雑系を模擬する数理モデルを用いてシミュレーションを行い, 因果構造の同定精度を評価した. さらに, 同定された因果構造を踏まえて予測をする場合と単純に観測しうる全変数を用いて予測をする場合の予測精度を比較し, 予測に用いる情報を厳選する効果を検証した. 次に, 実際の多変量システムに対する応用として, 実際の為替取引市場を予測対象とした. その際には, 実際のシステムは, 相互作用の構造が動的に変化する可能性を考慮する必要があるため, 予測モデルを動的に最適化することで本手法の有用性の検証を行った. このような検証を通じて, 以下の知見が得られている. ●最適化された予測モデルを参照することで, システムの因果構造を同定できる. ●最適化された予測モデルを用いれば, 新規データに対しても精度良く予測できる. ●実システムのように構造が動的に変化する場合, 予測モデルを毎回最適化することで予測精度を向上できる.
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