本研究では、目が見えなくなったヒトのために物体の認知機能を補填するような人工的な神経回路を構成することを最終的な目的とする。そのために、物体の認知に重要な役割を果たしている側頭葉の神経細胞の情報処理機構を解明することを本研究の目的とする。ヒトは、画像にノイズが混入した状態でも元の画像と同じものと認識できる。また、顔が他の方向を向いていても同じヒトだと認識できる。これは脳の視覚系において、似た画像が網膜に入力されると見たことがある画像を復元しているからであると考えられる。本研究では、ヒトがノイズ画像を見たときに、元の画像と同じものだと認識する処理過程は、人工神経回路モデルである連想記憶モデルに基づいていると仮設を立て、それを証明するためにサルの側頭葉から神経細胞活動を記録する。平成20年度は、次のような行動実験をサルに訓練した。サルをモニターの前に座らせ、目の前にあるバーを握るとタスクが始まる。始めに色画像が提示され、次に白黒パターン画像が提示される。その後に赤い正方形が現れ、緑色に変わったらサルはバーを放すように訓練した。色画像とパターン画像の組み合わせによって、サルは報酬をもらえたりもらえなかったりする。サルは報酬がもらえる試行ではもらえない試行より早くバーを放すことがわかった。このことより、サルはどの組み合わせが報酬をもらえるかもらえないかを学習したといえる。このタスクを実行中のサルの側頭葉から神経細胞活動を記録した。その結果、パターン画像が提示された期間にすでに報酬の有無を予測するような神経細胞活動が見られた。側頭葉は視覚情報処理について収容名役割を果たしている領域にも関わらず、報酬の有無によって神経細胞活動は異なった。平成21年度は、パターン画像にノイズを加えていき、サルの行動がどのように変わり、さらに神経細胞活動もどのように変わるかを調べていく予定である。
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