研究概要 |
ヒトが新奇な行為(身体運動)を効率的に学習するためには、他者によって遂行される同様の行為を観察し、模倣することが必要不可欠である。近年の神経科学における複数の研究は、行為の観察と遂行の両方で、前頭葉と頭頂葉の神経ネットワークによって構成されるミラーニューロン・システムが駆動することを報告している(e.g., Iacoboni, et al., 2005; Iacoboni & Dapretto, 2006)。しかしながら、ミラーニューロン・システムが継時的に呈示される無意味な姿勢の系列を模倣する段階において活性化を示すことを報告した研究はほとんどない。 そこで、我々は近赤外分光法(near-infrared spectoroscopy)による48チャンネルの脳機能イメージング装置によって、継時的に呈示される無意味な姿勢の観察と模倣中の脳活動を検討した。実験参加者の課題は、三次元コンピュータグラフィックスで描かれた9種類の無意味な姿勢を観察し、その後、同じ姿勢系列を観察しつつ自己の身体を用いて模倣することであった。実験の結果は、実験参加者が姿勢系列を身体運動として連続的に捉えることを明示的に求められる(教示される)条件よりも、明示されない条件においてミラーニューロン・システムを構成する前頭前野が強く活性化することを示す。この結果は、観察者がより自発的に観察対象の無意味な姿勢の系列を身体運動として捉え、学習しようとする際に、ヒトのミラーニューロン・システムを構成する脳部位が関与することを示唆する。
|