本研究の目的は「群れで生活する他の霊長類と比べて、より遠くにいる他個体のおかれた状況や他個体の意図を理解する為に、単独性のオランウータンは高い認知能力を用いている」という申請者が着想した新たな仮説の検証である。具体的には(1)オランウータンは他個体から何m離れた場所で、その個体に接近するかしないかを決めるのか(2)他個体に接近するかしないかを決定する要因は何か、について、接近する個体だけでなく、接近される個体の行動も分析することによって明らかにする。 研究代表者は平成20年4月〜5月はGPS等の購入など、野外調査の準備を行い、6月に調査地であるマレーシアに渡航し、1ヶ月間野外調査を行った。調査ではオランウータンの同時二個体追跡と落下果実センサスを現地で雇用した調査補助者と共に行い、研究計画の(1)および(2)を明らかにする為の資料を収集した。7月〜8月は訓練した調査補助者のみで果実季の資料を収集し、研究代表者は8月にイギリスで開催された第22回国際霊長類学会大会で今までの調査から得られた結果を発表した。学会中に海外の研究者と共同研究の打ち合わせ等を行い、研究代表者が第一著者となって共著の論文を執筆することが決まった。平成20年9月〜12月は、6月〜8月に収集した資料の予備的な分析を行うとともに共著の論文の為のデー分析、人類学の書籍の為に1章を分担執筆するなどの研究活動を行った。平成21年2月〜3月に研究代表者が再び調査地に渡航し、調査補助者と共に非果実季の資料を収集した。 本年度はほぼ当初の計画通りに資料を収集するとともに、研究成果の公表に向けた準備も進めることができた。今後は収集した資料の分析と平行して、野外調査による資料の収集も継続する予定である。
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