研究概要 |
本研究の目的は,人間の顔認知における情報処理の時間的側面について,発達的な観点から明らかにすることである.昨年度は新奇顔と親近顔それぞれに対する0歳児の視線の変遷を計測し,視線の遷移パタンが異なることを示した.すなわち親近顔が提示された場合は,目を中心として鼻や口といった主要な要素間を重点的に視線が移動するのに対し,新奇顔に対しては,それ以外の要素への視線移動が多く見られた. そこで今年度は顔認知の発達が視線の遷移パタンにどのように現れるかを検討した.正立した顔画像と倒立した顔画像を生後6ヵ月~14ヵ月の乳児に呈示し,両画像それぞれについて,視線の遷移パタンを比較したところ,生後9ヵ月までは正立顔と倒立顔に対するパタンに大きな違いは見られなかったが,9ヵ月を過ぎると正立顔の目鼻口間の視線の移動回数が著しく増加する一方,倒立顔に対してはそのような特徴が顕著でなかった.この傾向は生後13ヵ月になるとさらに明瞭になり,成人の視線の遷移パタンと類似した. 一方,従来から用いられてきた指標である注視時間で比較しても生後9ヵ月が顔認知の一つの節目であることが示唆された.すなわち生後9ヵ月より前の乳児は正立顔を選好するのに対し,生後9ヵ月以降の乳児は倒立顔への選好を示した.以上のことをまとめると,乳児は成人と違った顔の見方をしており成人様の視線パタンを獲得するのは生後9ヵ月以降であると言える. 本研究は,視線パタンという新しい定量化法を乳児研究に持ち込むことに成功したと言えよう.
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