研究概要 |
本年度に行った研究の中で最も意義深いと思われる結果は,変化点モデルに対する情報量規準の拡張である。変化点モデルは特異モデルを典型例としたいわゆる非正則統計モデルの一つであり,通常のモデル選択理論を適用することは妥当でない.例えば情報量規準AICも,期待平均対数尤度の推定量としての元来の定義から導出すると,罰則項はパラメータ数の2倍とならず,それにもかかわらず形式的にAICを適用すると複雑なモデルを選びすぎる傾向に陥ることになる.この背景のもと,昨年度までにおいて;元来の定義に基づいた妥当なAICを導いてきたが,通常のモデルに対するAICと同様,それは真の分布がモデルの中に入っているという仮定のもとで導かれたものであった.そこで,その仮定をはずしたもとで情報量規準,いわゆる変化点モデルのTICを今年度導いた.指数型分布族に属する分布に独立にしたがう,あるいは自己回帰モデルにしたがう中でパラメータの値がシフトするという基本的な変化点モデルにおいて,そのTICは陽な形で与えられることを示した.また,真の分布がモデルから少しずれている場合に,期待平均対数尤度とAIC,TICを比較すると,AICよりTICの方がはっきりと期待平均対数尤度に近いことを数値実験により確認した.そしてこの場合において,TICによるモデル選択の方がAICによるモデル選択に比べて妥当である,具体的に述べるとAICによるモデル選択は保守的すぎる結果を与えることも数値実験により確認した.
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