研究概要 |
本研究では, 光の並列性, 制御性, プログラム可能性とDNAの多様性, 自律性, 微小性を利用した新しい情報技術の創出をめざし, 光によるステップ動作が可能なDNA操作ユニットを実現し, これらを相互接続した光DNA演算技術を開発することを目的とする. 本年度は, 光DNA演算の基盤となる光DNA操作ユニットの設計と実証を行なった. 具体的な成果は以下のとおりである. 1. 光によるDNA制御技術を洗練し, 光DNA操作ユニット構築に必要な性能を得るため, 開発中の光駆動型DNAナノマシン(光DNAピンセット)を対象として照射光波長や温度条件等について検討した. その結果, ナノマシンの駆動時間間隔をそれまでの1/10に短縮し, 駆動効率を数%向上できた. 2. 光DNA操作ユニットとして, 特定のDNAを入力とし光信号に従って最終構造が変化する光DNA反応系について検討した. 反応系にはヘアピンDNAを採用し, その開閉構造によって内部情報を符号化するとともに, アゾベンゼン導入DNAを用いて光入力機構を実現する. 2値の入力光信号(紫外光, 可視光)に対し2種類の最終構造(開状態, 閉状態)をとる任意の反応径路を実現する4種類の光DNA反応系を設計することができた. 3. 設計した反応系に対する実証実験を行なった. ヘアピンDNA, アゾベンゼン導入DNA, 入力DNA等を混合した溶液に対し, 紫外光または可視光を照射したあと電気泳動により最終構造の変化を観察したところ, 4つの反応系で意図した構造が得られることを確認した. これは, 光信号に依存してDNA反応径路を切り換えられることを示しており, 光DNA操作ユニットを実現するための重要な機能であるばかりでなく, 光とDNAを用いた計算に広く応用できる点で意義は大きい. ただし, 一部の反応系では反応効率が低く, 反応系の修正が課題として残った.
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