研究概要 |
神経細胞はその樹状突起上における信号入力の位置に応じて,特定の時間情報を検出または無視する能力を有するという作業仮説を電気生理実験にて検証した.ラット海馬急性スライス標本におけるCA1錐体細胞樹状突起にWhole-cell Patch clampによるWhite noise電流刺激を適用し,膜電位応答を計測した.周波数応答解析の結果,1)細胞体と樹上状突起はローパスフィルタの特性を持つ.2)フィルタの通過周波数帯域は一様ではなく,細胞体に近位の樹状突起においてはローパスフィルタの特性が強い.3)樹状突起のインピーダンスについては不均一な分布を示し,先端樹状突起の中間シャフト部において最も高い値となる.4)樹状突起のローパスフィルタ特性は脱分極によってより顕著になる.5)コヒーレンス解析の結果,シータ・ガンマ周波数帯域において樹状突起における入出力の高いコヒーレンシを明らかにした.また細胞体から遠位の樹状突起についてはガンマ周波数帯域において顕著な遅延が記録された.本研究結果から細胞体樹状突起はシナプス入力に対して入力信号を細胞体に伝達するための単なる受容器官ではなく,入力信号を構成する周波数,その信号の樹状突起上の入力部位と入力タイミングにおける膜電位に応じたダイナミックな入力信号に対する応答の修飾を明らかにした.錐体細胞は先端樹状突起上におけるシナプス入力の時間加算様式について静的な線形加算ではなく動的な加算を経て神経細胞は発火に至る可能性を本研究は示唆する.本研究は神経細胞における時間演算機能の解明を通じて脳の時間情報処理機構解明の一端を担う.
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