今年度は、昨年度中に確立した多点記録法を用いて、麻酔下のジュウシマッIWC(小鳥の時系列処理中枢の一つ)から同時に複数のニューロン活動を記録する実験を行った。Cross-correlation法によって各ニューロンペアにおける機能的結合を測定データから推定したところ、自分の歌に対して選択的に強度を高める機能的結合を発見した。つまり、自分の持っている歌系列によって特定のニューロン集団の同期的活動が励起されることが明らかとなった。 次に、HVC内のそれぞれのニューロンペアにおける機能的結合の基本的特性についても解析した。それぞれのニューロンの自分の歌に対する選択的応答の強さ、その差、2つのニューロン間の物理的距離などの諸特性と、機能的結合の強さや鋭さとの関係を調べた。その結果、それぞれのニューロンの選択性が強ければ強いほど、かつ、選択性の差が大きければ大きいほど、機能的結合が強くなる傾向があることを見出した。また、2つのニューロン間の距離が近ければ近いほど、機能的結合が強くなることが明らかとなった。 以上の結果は、自分の歌に準じた順序で音声時系列が呈示されると脳内の特定の局所回路にある複数のニューロンが同期的に活動するということを示しており、「時系列分節化に伴って局所回路内で同期的活動が生じる」という当初の仮説に沿った結果が得られたといえるだろう。2年間にわたる研究の成果により、我々ヒトが長い進化を経て獲得してきた言語の重要な側面である「音声時系列分節化」の神経メカニズムを解明するための第一歩を踏み出すことができたと考えている。
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