研究概要 |
視覚数理モデル研究は理学的な貢献を目的とする場合が多い.本研究では理学的貢献はもちろんのこと,新たな画像処理アルゴリズムの開発なども目的とした視覚数理モデル研究を行っている. 本年度は,動画像中の動きを解析しているMT・MST野の計算論を構築するために必要な,心理物理実験を行った.具体的にはコントラストの変化させたパターンと知覚される速度の関係を調べ,得られたデータを定量的に表現するモデル構築を行った.その結果,コントラストと速度知覚には直接の関係はみられず,輝度勾配が速度知覚に直接影響を与えることが分かった.これらの結果から,視覚は輝度勾配ゲインコントロールを実行しているという新しい計算論を提案した.この計算論は画像工学的にも意味があり,オプティカルフロー(画像の動き)を安定して計算するために必要であることが分かった.この結果を受け,既存のMT・MST野モデルを修正したモデルを構築した. また,平成20年度から開始している本研究のこれまでの研究成果を,国際会議における招待講演で発表した. これまでにも多くの視覚数理モデルが提案され,シミュレーションによる動作確認と妥当性が検証されてきた.しかしほぼすべてのモデルは研究者,もしくは研究グループ内で共有されるにとどまっているために,複数のモデルを結合させてより規模の大きな視覚システムをシミュレーションすることは非常に困難である.本研究ではこの問題を解決することも一つの目標としている.本年度は,視覚モデルだけではなく,最終的には運動系モデルの統合も視野に入れたプラットフォーム開発に着手した.開発結果を平成23年度中に公開する予定である.
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