研究概要 |
大脳皮質では感覚野,運動野,そして高次領野というように,場所ごとに特化した機能的役割を担っていると考えられている.その一方でその機能を果たす基になっている局所的な構造(局所回路)は一定の共通性をもつことが知られている.この普遍的な局所回路の機能を理解するために局所回路の挙動を予測しうる理論を構築することを目指している.局所回路の挙動を理解するためには,多くの神経細胞の内部電位変化を同時かつ高時間分解能で記録することが理想であるが,現在ではこれは非常に困難である.そこで,本研究課題では局所回路の階層性とその相互作用に着目して,素子→結合→回路の3つの段階に分けて研究を遂行してきた. 平成21年度は主に動的膜特性に基づく錐体細胞(素子)の分類に関する研究と階層的局所回路の動態と情報処理機能の関係(回路)に関する研究を遂行した.神経細胞はいままで静的な性質を元に特徴づけられてきたが,本研究課題では動的な性質に着目して神経細胞を捉えなおした.まず,単一の神経細胞の電気応答を正確に予測するモデルの構築を行い,そのモデルに基づいて神経細胞を特徴づけた(Frontier in Computational Neuroscience 2009).また,インビボ神経細胞が生成するスパイク時系列の間隔がべき分布に従うという法則を発見し,その法則から「条件付エントロピー最小化原理」という仮説を提案した(日本神経回路学会第19回全国大会研究賞).この法則に基づいて神経細胞の分類をし,その機能的意義を考察した.この成果は,階層的局所回路の「動態」と情報処理という「機能」とを結びつける重要な結果である.
|