ヒトの環境に対する学習と脳可塑性の研究は、動物モデルでは機序の解明が急速に進んでいる。近年、非侵襲的脳機能研究法の一つである経頭蓋的磁気刺激法(TMS)を用いて、ヒトの大脳一次運動野に脳の可塑性変化を誘導・定量化する、個体レベルでの研究が可能となり注目を集めている。しかしながら、ヒトの運動学習に関連するグローバルな脳内ネットワークに関しては、本手法のみで解明することは難しい。そこで、他の非侵襲的脳機能研究法の一つであるポジトロン断層法(Positron emission tomography; PET)を併用することによって、運動学習に関連するドパミン神経系を介したグローバルな脳内ネットワークを評価する新たな方法論を確立することを目指している。 前年度、健常被験者で確立した方法論をパーキンソン病患者に応用した。まず、すでに確立された手指運動学習課題により大脳一次運動野に可塑性変化を誘導する実験を行い、運動学習課題の前、終了直後に、大脳一次運動野に対するTMSの記録を経時的に行い、患者群では大脳一次運動野に可塑性変化が低下していることを発見した。さらに、手指運動学習課題の遂行中に、大脳基底核(線条体)における内因性ドパミン量の放出を計測するラクロプライドPETの撮像を施行し、患者群ではドパミン放出量が低下しており、運動学習獲得においてドパミン神経系が強く関与している結果を得た。今後は、患者数をさらに増やし、パーキンソン病患者における運動学習機構と大脳運動野の脳可塑性およびグローバルな脳内ネットワークを解明できれば、パーキンソン病を初めとする神経難病患者に対して有効性を高めた運動リハビリテーションの戦略を提案できると期待される。
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