本研究全体では真猿類に属するコモンマーモセット大脳皮質における抑制性神経細胞の移動経路・様式を同定し、齧歯類から真猿類に至る進化の過程で生じた移動過程の変化の同定を目指す。今年度中は、まず発生に伴う抑制性神経細胞の分布変化をマーモセット固定標本を用いて免疫組織化学的に明らかにする計画であった。実際に、マーモセット大脳皮質内における抑制性神経細胞の、発生に伴う分布変化を調べるために、およそ胎生80日目と約90日目胎仔の固定標本を作製し、抗GABA染色により抑制性神経細胞を可視化し、それらGABA陽性細胞の皮質内における分布や個々の細胞の形態を調べた。結果、GABA陽性神経細胞はげっ歯類のそれと同様に、大脳皮質脳室下帯周辺を背側方向へと先導突起を伸ばしていることが明らかになった。また脳室下帯から皮質板へ向けて斜めおよび垂直に先導突起を伸ばしている細胞も観察された。さらに辺縁帯では背側方向のみならず、様々な方向へ突起を伸長している細胞が多数観察された。これらのことは、大脳皮質抑制性神経細胞の大脳皮質内での移動経路・様式はげっ歯類と真猿類でほぼ同じであり、哺乳類において共通して保存されている可能性を示唆している。今後、細胞レベルでの分布や形態のみならず、これら移動細胞で機能している分子メカニズムがどの程度共通しているのかを調べることは面白いかもしれない。その第一歩として、マーモセット細胞をマウスへ移植した際の挙動を調べるなどという実験が考えられる。
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