前年度に行ったマーモセット大脳皮質内における抑制性神経細胞の発生に伴う分布変化を調べた免疫染色の結果より、大脳皮質抑制性神経細胞の大脳皮質内での移動経路・様式はげっ歯類と真猿類でほぼ同じであり、哺乳類において共通して保存されている可能性が示唆された。この可能性をより実験的に、またマーモセットMGE細胞とマウスのそれとの内在的な移動・分化特性の違いを理解するために、マーモセットMGE細胞を赤色蛍光タンパク質でラベルし、緑色蛍光タンパク質でラベルしたマウスMGE細胞とともに胎生13.5日目の子宮内マウス胎仔MGEに移植した。結果、マーモセット細胞はマウス細胞とほぼ同じ分布を示したことより、MGE細胞の移動経路制御機構は哺乳類において共通して保存されていることが示唆された。また、生後7日目の時点でマウス抑制性神経細胞は大脳皮質内において多くの長い神経突起を伸ばしている一方で、マーモセット抑制性神経細胞は1-2本の短い神経突起を伸ばしている様子が観察された。これまでの知見との比較より、このマ-モセット細胞の形態は移動中の神経細胞である可能性が極めて高い。この結果は霊長類のMGE細胞はげっ歯類のそれに比べて内在的に移動を継続する特性が長期間にわたって維持されていることを示唆している。このことは大脳皮質が著しく肥大化したヒトを含む霊長類において、その発生期で移動細胞がどのようにして長距離移動を可能にしてきたのかを理解する上で重要な示唆を与えていると思われる。今後、これらマーモセット細胞の移動後の分化過程の解析を進めることで、ヒトを含む霊長類で特異的に発達した大脳皮質発生機構の理解に貢献できると考えている。
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