線虫の神経回路レベルで成立する嗅覚順応において、未解決の問題に焦点を当てて解析を行い、本年度は以下のような成果を得ることができた。 (1) in vivoライブイメージングによるRas-MAPK経路の活性の時空間的制御 Rasの活性化イメージング分子であるRaichu-Rasを嗅覚神経で発現させ観察したところ、匂い刺激に応答したRasの活性化を観察することができた。また、Rasの活性化が匂いの濃度変化に応答していることもわかった。三量体G蛋白質やcGMP依存性チャネルの変異体では、Rasの活性化が見られる頻度が著しく低下した。従って、Rasは匂いシグナル伝達経路の下流で活性化すると考えられる。 (2) 網羅的RNAi法を用いた匂いシグナルのインプットの仕組みの解明 嗅覚レセプター遺伝子の網羅的RNAiを行い、遺伝子機能阻害株の匂いへの走性を調べるスクリーニングを行った。822遺伝子について、すでに3次スクリーニングまで解析を終了しており、実験に用いたすべての匂いに対して候補遺伝子を取ることができた。また、4次スクリーニングも部分的に終了しており、srh-139、srb-1遺伝子の機能阻害株が、ペンタンジオンに対する応答に有意な欠陥を示すことがわかった。これらの遺伝子の産物は、嗅覚受容体である可能性が示唆される。 (3) 順遺伝学、逆遺伝学的手法を用いた嗅覚順応に関わる新規分子の探索 クローニングが容易なMos1トランスポゾンを用いた変異体のスクリーニングにより、順応に関わる新規分子の探索を行った結果、AMPKをコードするaak-2が得られた。既存のaak-2変異体も順応に異常を示すことから、AAK-2が順応に関与していることが示唆される。また、逆遺伝学的手法により、翻訳制御因子IFE-2の関与もわかった。
|