線虫の神経回路レベルで成立する嗅覚順応において、本年度は以下のような成果を得ることができた。 (1) in vivoライブイメージングによるRas-MAPK経路の活性の時空間的制御 Rasの活性化イメージング分子Raichu-Rasを嗅覚神経に発現させることにより、匂い刺激に応答したRasの活性化を観察することができたが、蛍光変化が非常に小さく捉えるのが困難であるという問題点があった。そこで、イメージングシステムの改良、匂い刺激を与える手法の変更、Raichu-Rasプローブの改良などを行った。その結果、以前はratio (YFP/CFP)変化が4%程度だったものが、20%にまで上昇し、シグナルを的確に捉えることが可能になった。また、嗅覚神経だけでなく、AIY介在神経でRaichu-Rasを発現させることに成功した。 (2) 網羅的RNAi法を用いた匂いシグナルのインプットの仕組みの解明 嗅覚レセプター遺伝子の網羅的RNAiを行い、遺伝子機能阻害株の匂いへの走性を調べるスクリーニングを4次まで行った。そこで得られた候補遺伝子のうち、sri-14遺伝子機能阻害株は高濃度のジアセチルからの忌避行動にのみ異常を示した。低濃度ジアセチルの受容体としてODR-10が知られており、濃度によって反応する受容体が変化することが示唆される。また、得られた候補遺伝子のいくつが頭部神経に発現することを見出した。 (3) 順遺伝学、逆遺伝学的手法を用いた嗅覚順応に関わる新規分子の探索 AMPKをコードするaak-2が頭部神経系に発現することがわかった。また、神経突起除去が正常でない変異体では嗅覚順応が異常になることを突き止め、学術誌で報告した。
|