申請者らの最近の研究で、大脳皮質の脳室下帯のGAD67を発現する細胞のうち約2割がオリゴデンドロサイトマーカーの発現と共存することが分かっている。申請者らはこの細胞は、GABAニューロンとオリゴデンドロサイトを生み出せる共通の前駆細胞であると考えている。 平成21年度は、新潟大学脳研究所の崎村建司先生よりGAD67-creノックインマウスを供与していただき、GAD67-creノックインマウスとレポーターマウスを掛け合わせて、GAD67遺伝子発現細胞の細胞系譜を解析することを試みた。生後1か月齢のマウスの脳を免疫組織化学解析したところ、GFP陽性細胞の99.9%以上はGABAニューロン様の形態を持つ細胞であり、特に背側大脳皮質ではグリア細胞は全く認められなかった。しかしながら、少数のオリゴデンドロサイト様の形態を持つ細胞が、脳梁や、大脳脚、視床に認められた。また、同様に少数のアストロサイト様の形態をもつ細胞も、尾状核、偏桃体皮質に認められた。さらに、同じマウスを用いて初代培養実験を行ったところ、GFP陽性細胞のほとんどは神経細胞に分化しているという同様の結果を得ることができた。このことからグリア細胞マーカーとGABAニューロンマーカーを共発現する細胞も、最終的にはGABAニューロンに分化しており、GAD67陽性になった段階で既に細胞運命は決定していることを示唆している。また、興味深いことに線条体由来のGFP陽性細胞は大脳皮質由来の細胞に比べ、5倍以上もグリア細胞に分化しやすいことがわかった。これは、同じGAD67遺伝子発現細胞の細胞系譜であっても、細胞を分化させるポテンシャルは部位特異的に異なっているためであると考えられる 以上の結果をまとめると、GABAニューロン前駆細胞は同じ性質を持っているのではなく、一部はグリア細胞に分化するポテンシャルを秘めており、その細胞は部位特異的に存在していることを示唆している。(現在論文準備中)
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