本研究は、不測の事態を乗り越えて行動を実施するプロセスへの視床CM-PF核一線条体系の関与を検証することを目的に行った。"不測の事態"が生じた時に視床CM-PF核-線条体系が関与し、動物の行動価値に基づいた意思決定、行動選択の脳内情報処理を補完する役割を持つと示唆されているが、ヒト、動物を含め、正しい行動を選択してもゴールに到達できなかった時に、それを乗り越えてやり遂げる行動発現に関わる神経メカニズムはほとんど明らかにされていない。そこで望ましくない行動の要求の程度に従って、視床CM・PF核の活動が変調し、より望ましくない行動に対してより強く関与することを検証した。20年度は、1頭のニホンザルに強制選択課題(1つの選択肢では大きい報酬がもらえるが、もう一方の選択肢では小さい報酬しかもらえない)を十分に学習させた。そして、大きい報酬がもらえる選択肢、つまり動物にとっては望ましい選択肢に対する行動と、対抗する小さい報酬しかもらえない選択肢、つまり望ましくない選択肢に対する行動を比較し、動物の行動の指標となるリアクションタイムやエラー率から行動パターンを調べた。その結果、大きい報酬 : 小さい報酬=50 : 50から80 : 20に変化させると、大きい報酬の時には小さい報酬の時に比べて、ボタン放しのリアクションタイムが短縮し、エラー率も減少した。このように、動物は要求されている行動選択が望ましいかどうかを区別していることが分った。21年度は、視床CM核の神経活動を細胞外記録法によって捉え、行動パターンと視床の神経活動との関係を検証する。
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