研究概要 |
本研究は、昨年に引き続き「不測の事態を乗り越えて行動を実施するプロセスへの視床CM-PF核-線条体系の関与」を検証し、特に、線条体の機能的役割の解明に重点をおいた。線条体は、視床CM・PF核と違い、動物の行動価値に基づいた意思決定、行動選択の脳内情報処理への関与が示唆されているため、線条体神経細胞活動の応答特性を調べた。強制ボタン押し課題(ボタン押し(GO)と押さずに待機(NOGO))を訓練した3頭のニホンザルを用いた。2種類の行動の一方は大報酬と連合し、もう一方は小報酬と連合させた。動物にとっては望ましい選択肢に対する行動(大報酬)と、望ましくない選択肢に対する行動(小報酬)を比較したところ、望ましい行動の時にリアクションタイムやエラー率が短縮、減少した。この結果から、要求されている行動選択が望ましいかどうかを区別し、望ましい行動を期待しながら行動していることが分った。次に線条体の被殻に微小電極を刺入し159個の単一神経細胞の放電を記録した。行動・報酬指示を待っている期間の神経活動は大きい報酬がGOまたはNOGO行動のいずれに連合しているかに選択性を示した(35/38細胞)。行動の実行期間には、多くの神経活動が行動と報酬の連合に高い選択性を示した(114/153細胞)。これらの結果から、被殻が報酬価値と連合した行動を望ましいかどうかに対応した動機づけによって実現するうえで重要な役割を担うことが示唆された(Hori et al., 2009, JNP)。さらに行動と報酬の連合に高い選択性を持つ神経細胞の中には、以前報告した視床CM-PF核の望ましくない行動に選択的な応答(Minamimoto et al., 2005 Science)と対応する活動も存在していた。そのため、視床CM-PF核-線条体系が望ましくない行動の選択・実行のプロセスに関与していることが推測される。
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