研究概要 |
我々は先行研究において、視床CM核が望ましくない行動に選択的な応答を示す(Minamimoto et al., 2005)ことを報告してきたが、この応答が単に望ましくない行動を実行するという行動自体に関与するのか、それとも、望ましくない行動を実行する際に生じる望ましい行動のバイアスのキャンセルに関与するのか明らかにされていなかった。この問題を解決するために、行動のバイアスが生じるボタン押し課題とバイアスのないボタン押し課題を2頭の日本サルに行わせた。両者の課題は、右ボタン押しでは大報酬、左ボタン押しでは小報酬といった行動と報酬量の連合づけを施した。バイアスありの課題では、運動の開始と報酬量の指示が同時に点灯するため、動物は大報酬の行動を期待し、素早く正確な行動を行った。一方、バイアスなしの課題、つまり指示刺激によってあらかじめ大報酬の運動方向が示される時には、大報酬と小報酬の正答率には有意な差を示したが、バイアスの程度を示す反応時間は見られなかった。この行動結果を基に、バイアスの程度を視床CM核がコードしているのか調べると、小報酬が要求された時の反応時間の延長に伴って、視床CM核の放電頻度が増大した。また、この応答はバイアスなしの課題において、行動指示後にではなく、報酬情報の指示後に見られた。このように、視床CM核は、望ましくない行動自体に関与するというよりも、望ましい行動へのバイアスの程度に応じて望ましくない行動を実施する過程に関与していることが示唆された。このように、視床CM核が報酬価値に基づいて行動情報を表現することに関わることが推測される。
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