発生期の特異的な神経回路網の形成は、脳の複雑な機能を支える基盤である。本研究は、特異的神経投射のモデル系である一次嗅覚神経回路において、軸索投射に先立ち、嗅上皮上での嗅細胞の位置情報がどのようにして決定・維持されるのかという分子機構の解明を目的とした。特に、発生初期から成体に至るまで、嗅上皮での領域特異的な発現が持続する形態形成因子BMPファミリーに着目し、嗅上皮の発生におけるBMPシグナルの機能解析を中心に研究を行った。 本年度の研究により、マウス鼻窩から成体の嗅上皮に至るまで、BMP4が背内側(弱)から腹外側(強)に勾配を持って発現することを明らかとした。一方、BMP6は嗅上皮全体でモザイク状の発現を示し、BMP7は最も腹外側の一部の嗅細胞サブタイプにおいてのみ特異的に発現することを見出した。BMP7の発現する嗅上皮の最も腹外側の領域には、大気中のCO2を感知する特殊な嗅細胞サブタイプが存在することが、最近明らかとされている。BMP7は正にこのサブタイプの細胞でのみ特異的に発現し、嗅細胞サブタイプの分化に関与する可能性が考えられる。これらBMPのマウス嗅上皮における領域特異的発現は、BMPシグナルが嗅上皮の発生において、重要な役割を果たすことを強く示唆している。そこで、これら候補遺伝子の機能についてvivoで効率よく解析する為、申請者はレンチウイルスによる嗅上皮への遺伝子導入の系を立ち上げた。これまでに嗅細胞への遺伝子導入に成功しており、今後このウイルスの系を用いて研究を行う。
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