研究課題
本年度は心理物理、神経生理の両面から研究を進め新たな発見が得られた。物体画像の艶成分と物体色成分を独立に操作する画像処理を行っていたところ興味深い現象を発見した。画像の輝度は同一のまま、艶部分に特定の色をつけることによって画像の明るさ感が著しく上昇する現象である。この錯視現象をクリッピング錯視と名付け、錯視の効果の大きさ(30%以上の輝度上昇に相当)や寄与する条件(変化させる色相の方向)を心理物理実験により明らかにした。また、この現象は光沢を持った物体画像に限らず、風景写真や単純な縞模様であっても同様の画像処理で生じることから、艶と物体色の分離処理は必要としない視覚機能であると言える。色による効果として既知の効果(ヘルムホルツ・コールラウシュ効果)では説明できないため、新しい視覚モデルを考える必要がある。物体色をコードしていると考えられる下側頭皮質における色情報の表現を探るために、サルを対象とした電気生理実験を行い、微小電気刺激による色知覚への変調効果を詳細に測定した。サルが視覚刺激の色の違いを見分けているときに、下側頭皮質前部(TE野)に微小電気刺激を与えると判断に大きな変動が生じることが分かった。大きな効果が生じるのはTE野のごく一部を刺激したときで、それは前中側頭溝の後端近傍に数mm程度の広がりを持った領域であった。この領域のニューロンは強く鋭い色選択性を持っていた。電気刺激は色の判断を変化させ、その変化方向は色平面上で一貫したパターンを形成していた。そのパターンは、刺激部位に存在するニューロンの色選択的応答と対応関係が見られたことから、下側頭皮質と色知覚の因果関係を含む重要性を示した点で成果があった。
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VISION 22巻
ページ: 41-48
PLoS Computational Biology 5巻
ページ: e1000433
Computational Color Imaging LNCS 5646
ページ: 23-30