今年度は主に、科研費取得前から取り組んできた本研究の成果を、学会で発表してきた。申請者はこれまでに、運動記憶の転送に関する理論的な枠組みを構築し、それを比較的簡単な計算機シミュレーションで確認してきた.具体的には小脳が担っている、前庭動眼反射の適応のシミュレーションを行った。シミュレートされたトレーニングによってまず小脳皮質プルキンエ細胞において学習が起こり、眼球運動のゲインが増大した。その後トレーニングを続けると、プルキンエ細胞の出力を教師信号として前庭核でパーセプトロン学習が起き、ゲインがさらに増大した。前庭核での学習後、小脳皮質での学習結果をリセットすると、動物実験で報告がなされている、運動記憶の転送を再現するような結果が得られた。この結果を日本神経回路学会の全国大会で1回、Society for NeuroscienceのAnnual Meetingで1回発表し、その際、購入したノートパソコンを用いてプレゼンテーションを行った。その後、より大規模なシミュレーションを実施するために、購入した計算機シミュレーション設備を立ち上げた。現在シミュレーションを走らせているところである。本研究によって、運動記憶の痕跡の所在と短期記憶から長期記憶への変換過程について理論的な考察を与え、それによって運動記憶の所在についての議論である「伊藤仮説対Miles-Lisberger仮説」の対決に解決をもたらすことが期待される。
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